今日は外来受診の日でデイケアに行った。僕はこの精神科デイケアが心底嫌いだというのは何度も書いたのでもう書かない。禁煙してるので煙草を強請る乞食みたいなオッサンにも絡まれず、それなりに心穏やかな一日を過ごすことができた。やることもないので、一日中、岸田秀の「出がらし ものぐさ精神分析」を読んでいた。
普通にフロイトの精神分析の入門書としては良書だと思う。前半パートと後半パートで章が変わっていて、前半パートでは岸田氏の精神分析エッセイ。後半パートではフロイトの理論解説が書かれている。問題としてはちと古い本だということか。初版が1980年の本である。理論解説は良いんだけど、エッセイ部分が流石に話題が古い。愛のコリーダ裁判とか僕が生まれる前の話じゃないか? 太宰治の分析やユング批判なんかをしてたりするね。読書感想で「天才の精神分析」という本の感想を書いてたのだが、ここで書かれているパトグラフィ(病跡学)については読んでみたいと思った。病跡学とは、
病跡学とは、宮本忠雄氏によれば「精神的に傑出した歴史的人物の精神医学的伝記やその系統的研究をさす」、福島章氏によれば「簡単にいうと、精神医学や心理学の知識をつかって、天才の個性と創造性を研究しようというもの」です。
「天才の精神分析」では、三島由紀夫、川端康成、空海、G・マーラー、宮沢賢治、北杜夫、萩原朔太郎、吉岡実、安部公房、中原中也という天才たちの作品を精神分析しているらしい。知的好奇心がぐんぐん刺激される。次、図書館行く時探してみよ。
次はフロイトの理論解説部分。一応僕は大学では心理学専攻だったのでフロイトの「精神分析入門」と「夢判断」は読んでいる。しかしながらこの2冊は古典だから理解するには相当に厄介な本である。どんなものだったか思い出そうとしたが、難しかったと言うことしか思い出せない。この「出がらしものぐさ精神分析」ではフロイトの理論をわかりやすく解説してあった。乳幼児の発達理論、エディプスコンプレックス、リピドー、タナトスなどフロイトの各論を章立てで解説している。まぁある程度心理学を学んでいる人向けだけど、無理すれば入門書としても読めなくはないかもしれない。
そこで改めてフロイトの各論を読んでみての感想だが、こんなことを言うとフロイトイストにはぶん殴られるかもしれないけど、フロイトは「心理学の父」と讃えられる存在だがその理論は現代だと通用しないだろうなという感じである。精神分析が心理学という学問を生み出す切っ掛けにはなったかもしれないけど、相当局所的な精神病しか扱ってこなかった。フロイトがその理論の根拠にしたのは1890年代ウィーンの神経症患者からの知見だけである。
「神経症的疾患のすべての場合において、性生活からの契機がもっとも近い、もっとも実際的な意味のある原因である」というのが、フロイトの首尾一貫した考え方である。フロイトは、異常な熱心さをもって、この性的起因説に執着した。フロイトのこの考え方は、われわれには奇異に感じられる。神経症の原因として、性は主要なものではない。神経症は、葛藤場面を契機とするものであるというのがわれわれの見解である。フロイトの見解は、彼の治療した患者たちがつねに、性の問題について葛藤を体験していたので、その観察に基づいたのであろうとわれわれは推測する。それはC・G・ユングのフロイト批判にあるように、フロイトが住んでいた当時のウィーンにおける歴史的、文化的条件に限定されたゆえであると、すなわち、フロイトが診断した神経症の患者は、当時のウィーンにおける、ヴィクトリア時代的な、きゅうくつな、偽善的な性道徳に囚われていたから、彼らの葛藤はつねに、性に関することに限られていたと考えれば、われわれにも納得できる。われわれの考え方に従うならば、神経症の契機となる葛藤は、別に性に関したものでなくてもよく、性以外のどのような問題であってもよいのである。
出がらしものぐさ精神分析 P207
なんというか、フロイトの理論はユングが指摘する通り1890年代のウィーンの文化的歴史的に制限された条件下のもとでしか有効ではなかったのではないかと思う。その理論が生み出した防衛機制なんかはかなり臨床の場でも有効な気がするが、それでも強迫観念とか神経症以外の精神疾患で使えるのか?と懐疑的である。例えば統合失調症なんかは自我が障害にぶち当たって退行し続けた結果、外界に興味を失うというような解釈である。精神分析的解釈ではそれでも良いかもしれないけど、これが臨床に使えるのかなぁ。まぁ統合失調症にカウンセリングはユング派だろうがロジャーズ派だろうが有効な治療法ではないけど。
こんな感じでフロイトを否定しているように見えるだろうけど、フロイトの歴史的偉業は評価しているのよ? 自分的にはフロイトとユングの衝撃的出会いと蜜月、そして決定的な確執は心理学を知る上で最も熱いエピソードだと思ってる。このあたりは「無意識の発見」アンリ・エレンベルガー著がオススメである。まぁ学術書だからクソ高いので図書館で見かけたらぜひ読んでみて欲しい。
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