今は昔、かつてmixiなる現在のSNSの先駆けとなるwebサービスがあり、ネットを使っているものはみなこぞってここで日記を書き、マイミクを増やすことに汲々としていた。匿名実名論争で紛糾したり、足跡機能のお陰で貴重な睡眠時間をごっそりと奪われたりしながら、表面上では皆仲良くしながらテーブルの下ではスネを蹴り合うという日本の精神文化を体現した貴重なSNSであった。そのmixiであるが、時間の流れには勝てず、アクティブユーザーの数をどんどん減らし今ではゴーストタウンと見間違う姿に変えてしまったのでした。そのmixiが何を勘違いしたか「10年前の日記を公開するね♡」とトンデモナイことをぶち上げてアクティブユーザーを取り戻すという暴挙に出た。
ここに一人の男がいる。ある時、webを巡回していて一つの記事を見つけた。BuzzFeedの記事でmixiがなんかヤバそうな企画をしているらしきことを見聞した。「……そういや俺もmixiで日記を書いていたな」男は怖いもの見たさで永久封印したパンドラの箱を開封することを選択した。それがとてつもない羞恥と恐慌を巻き起こすことも知らずに……。
久々に訪れたmixiは何も変わっていなかった。悪い意味で。FacebookやtwitterがHTML5やAjaxなどでユーザビリティを高めているのに対して、mixiは旧態依然のガチガチのホームページ形式あった。まぁそれでも男は2000年前半の懐かしさに胸を踊らせてかつてのマイミクの行方などを知るなどしていたのだった。
A long time passed. 長い時が過ぎた。やがて男は無意識的に避けていた恐怖の根源に向き合うことを決めた。男はそれを永遠に避けられたら良いと本能的に知っていたのだ。いや、そもそもmixiにログインしてそれに向き合うこと自体が蛮勇だったのだろう。震える指先で「日記」と書かれたリンクをクリックした。
男は読んだ。必死に目を血走らせながら。読んでる間中、頭の血圧が高まり、何かの弾みで血管が切れて血潮が迸るのではないかというほど顔を紅潮させていた。あまりもの羞恥プレイで目の前が眩んでくる症状に男はよく耐えた。
すべてが終わった後、真っ白な灰になったかつて人間だった存在が座っていた。とこしえとも思える長い時間が経った後、男は震えながら立ち上がり、窓の方に向かった。窓を開け放ち12月の頬を切る風が吹き込んで来る中で、男は叫んだ。「フォアー!」誰に向かって警告した叫びなのかは解らぬが完全に危険球だった。自信満々で振り回したドライバーがかっ飛ばしたボールはあらぬ方向に向かっていた。だが、誰もこの男の叫びで真意を知ることは無いのであろう。男は寒かったので窓を閉めた。
さて、ここからは地の文に戻すね。いや、何考えてんだmixi! かつて、意識高い系の鬼だった過去の自分と向き合う結果になったよ。恐る恐る読んだけど破壊力バツグンだ。人間の精神を崩壊させるための方法としてこれ程適切な方法もないであろう。一つだけ引用しよう。
前に進むために歩く、今はそれだけを考えている。
己の価値を決めるのは自分自身のあり方だ。
現状を呪うより、行動を起こせ。
志を高く持つならば、自ずと世界は姿を変える。
うぁわ、なにこれ死にたい。この頃の僕は極めてポエミィだったようだな。こんな文章がみっちり書かれているのよ? 現在進行系で黒歴史をwebに発信し続けている自分だとしてもこれは酷いと言わざるを得ない。別にプライバシーに関わるような文章はなかったけど、これを残しておくのもなんかやだな。
あと、mixiの構造をあれこれ調べてみたけど、2016年の今まで何も変わらずごちゃごちゃに情報を詰め込んだ形式でやっているのはある意味奇跡だな。Googleやtwitterがシンプルな形式のwebデザインを流行させようとしているのにYahoo!とかを愛用する日本人は別にこの程度で良いかもしれない。
まぁ世の中にはジオシティーズなんかで黒歴史ホームページを作ってパスワードを忘れて削除もできなくなっている人も居るらしいな。僕はそこまで愚行は侵さなかった。mixiでやったのはある意味幸運かもしれない。これがGoogleなどを介してネット中に撒き散らされていて、何かの偶然で自分の目に入ったら発狂するかもしれない。クローズドな環境でひっそりと置いておくなら別にアカウント生かして置いてもいいかな。だが、mixi、オメーはダメだ。何がアジカンとの提携でリライト企画だ! 僕はパンドラの箱の中身晒されると思った時、マジで死ぬほど恥ずかしかったんだぞ!