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「鹿の王」(上橋菜穂子著)を読んだ。

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「鹿の王」(上橋菜穂子著)を読んだ。


最近、全然小説を読んでねーなと思って、りとさんの紹介している「鹿の王」(上橋菜穂子著)の4巻セットを買って読んだ。


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自分はどうやら、上橋菜穂子の書くファンタジーというのは大好物であるらしい。「精霊の守り人」も面白いと思って途中まで読んである。ファンタジーを書くのだけど、民俗学をベースにしていろんな文化が交流するハイファンタジーを書くのである。自分もいずれハイファンタジーを書いてみたいなーと思っているのだが、ちょっとした中編を書く程度で四苦八苦するのでいつになったら書けるのかは神のみぞ知る・・・。


なんというか、コロナ禍の今にこの「鹿の王」を読んだのは、ある意味タイムリーっすね。この作品は黒狼病(ミッツアル)という流行病を国中にまき散らす細菌テロと戦う医療ノベルとしても読めますね。一応、ファンタジー作品なのでちょっと現実にある新型コロナみたいな感染症とは違って、主人公の一人のヴァンは黒狼病の蔓延する岩塩坑で生き延びて病気の抗体を得るんですけど、それで超常的な能力を得てしまいます。


この作品は、医療とは何か? 命とは何か?みたいな事を感染症を防ぐ二人の主人公の旅で描写していきます。もう一人の主人公のホッサルは現代的な医療技術を扱う国家の生き残りとして、オタワル医術で多くの人の命を救いたいと考えているんですけど、この世界の中心的な国家・東乎瑠の国教「清心教」では、それとは対比的に命ではなくて魂を救う医療を教義としているんですね。


清心教の医療というのは東洋医療みたいなもので、漢方みたいな方法を使って心を安らかにさせるという風な治療法なんですけど、当然なんですけどそんな治療法で感染症みたいな病気を治す事はできないんですね。だけど、病気で死んだ後に残された遺族の囚われを開放して心を救う事ができるのは、近代医療のオタワル医術ではなくて清心教の医療の方だったんですよ。


宗教と医療の対立みたいのがテーマの一つとして含まれていますね。ホッサルの祖父、リムエッル優秀な医師なんですけど権謀術数を使って清心教医療を滅ぼそうとしています。また、清心教の方もオタワル医療を邪教として、王族が感染病で死にそうになっても治療を受けさせないようにして死なせてしまいます。ホッサルは終盤では医者でありながらも心を救う治療をしようとしますけど、そこに至るまでには人間的な成長がありました。


人間の体の中は森の様と比喩で語られるんですけど、人間自身が自分の身体の中で起きている事をすべて把握できる訳ではない。現代医療が如何に進歩しようとも、人間のすべてを理解はできない。病にしても、医療ではほんの一部しか対症療法的に対応する事しかできない。ましてや連綿と続く命の流れの中では人間の意識などちっぽけなものだ。最先端の現代医療でも末期がんの患者の心を救う事ができるのか?とか、そういう命の在り方みたいなものも裏テーマとしてはあるんじゃないかな?と思います。


この劇中で感染を広げている黒狼病は伝染病なんですけど、病気のデマで国家が対立しそうな状況に陥ったりします。とある人種には感染しやすかったり、感染しなかったりする。それで「アカファの呪い」などとして、人種差別が起こりそうになるんですけど、まさに今の新型コロナでも起きてる事だなーと思います。


どこぞの政治家が新型コロナを武漢肺炎とか呼ぼうとしているみたいですけど、人間の心理というのは何か不安な事があれば誰かに責任を押し付けて自分の弱さを慰めようとするんですね。こういう感染症による人種差別はカミュの「ペスト」という小説の中でも取り上げられている様ですけど、現実でもあるあるのパターンなんでしょう。結局、そういう人種差別は人心の断絶を生み出して感染病の疑心暗鬼を後押しする結果になるのですけど。


カミュの「ペスト」も今のタイミングで読んでおくと面白そうですね。他にも感染症を取り扱った小説としてはダニエル・デフォーの「ペスト」もあるのですけど、そちらも合わせて読んでおきたいところだ。


表題の「鹿の王」というのは、群れが危機に陥った時に一匹で犠牲になる牡鹿の事を指すのだけど、主人公ヴァンの父はそれを「愚か者」として切り捨てる。だけど、それはヒロイックな感情に酔って犠牲者になろうとする若者をいさめる年上の言葉だった。主人公のヴァンは結果的にその生き方をなぞってしまう。ヴァンの生き様は、全ての人生を集約して「鹿の王」になる。この行為が単なるヒロイックな自己陶酔ではないのは物語全体で語られていますけどね。


ちなみにこの「鹿の王」は続編もあるという。


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これも読むべきか。読む本がたくさんあって時間がないな。


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